倉井の策略!?

なんか ちょっと おもいついたことなどを かくのです。

【研究論】コウテイペンギンは絶滅するのか―学術的データの有効性と限界―

こういうアホ記事を読むとほっとけないので、ちょっと書かせていただきます。



地球温暖化が現在のペースで進むと、南極のコウテイペンギンが今世紀末には絶滅する可能性があることが、米仏の研究チームの分析で分かった。温暖化で海氷が減り、繁殖が困難になるためと指摘している。米科学アカデミー紀要電子版に発表した。 (記事より引用)。


こういう記事を読んで気になるのは、「結果」そのものよりも、構造化に至る軌跡、つまり、「誰が、どのような情報をもとに分析したのか」を明示化することである。ニュースで言ってるとなんかホントっぽいけど、元を正せば、かなりいかがわしい情報だったりするからね。


※なお、この日記ではあえて、この記事の書き手および研究チームの依拠している「地球温暖化が進行している」という仮説に基づいて考察することとします。僕はそんなの信じてないけど。



>研究チームは主要な生息地のアデリーランド地区で1962~2005年の個体数と気温の関係を分析した。72~81年の温暖期には海氷が急減し、つがいが3000組に半減していた。


さいわいにも、このニュース記事にはしっかりツッコミどころが明示化してある。いわく、この「研究チーム」(=主体)は、「アデリーランド地区」における「1962~2005年」の「個体数と気温の関係」(=研究目的)を分析(=構造化)した、のだそうだ。つまり、このニュースの情報源になっている「研究チーム」の関心は、結局のところ「アデリーランド地区」における「個体数と気温の関係」を分析するにとどまるものであって、それと「南極のコウテイペンギンが今世紀末には絶滅する可能性がある」という結論のあいだにはかなりの飛躍がある。


ペンギンだって歩けるのだから、ただ単に別の生息地に移住しただけなんじゃないだろうか、という仮説も成り立つはずである。(コウテイペンギンの個体に識別標識をつけて長期的に観察すれば、この“仮説”だって「研究」になる)。そもそもアデリーランドって、むかしはアデリーペンギンの生息地だったはずじゃないのだろうか。



というか、こんなことは僕が言わなくても、そもそもこの記事の末尾には、高橋晃周・国立極地研究所准教授(動物生態学)によるツッコミが入っているのだ。

>だが今のところ、南極の昭和基地近くを含め他地区で顕著な減少は見られない。詳しい調査が必要だ。


ちょっと乱暴に切り捨てるなら、この記事は最初と最後でぜんぜんちがう分析結果があることを提示しただけで終わってる羊頭狗肉な雑文だったというわけだ。いや、まあ、書き物を売り物にしてる記者(=売文屋)さんならば、ちょっとセンセーショナルなことを書いて目を引きたいのはわかるからいい。だからここでは、「米仏の研究チーム」に対してひとこと。



温 暖 化 に 関 連 づ け て 研 究 費 も ら お う と か 思 う な よ w 



いや、僕も来年、日本学術振興会の再申請するときは、横光利一の『上海』を無理やり「アジア」に結びつけてやろうと思ってるけどねw。・・・だから、「研究者も適度に流行にのらないと喰っていけない(=研究費がもらえない)」というのは、ある程度までは理解できる。だけどやっぱり、地球の未来にかかわることでウソやごまかしはいけないのではないか、という気がする。


学問的研究がどんどん専門的になっていくことで、「研究者はじぶんの研究関心以外のことには無知である」といった状況が生まれつつある。いわゆる「学問のタコツボ化」というやつである。もちろん、そうやって細分化されていった領域で考究された知見にも“使いみち”はあるんだろうから、細分化=専門分化という状況そのものを否定するわけではない。否定するわけではないけれど、それをいざ実際に活用するというときに、“井の中の蛙”となってしまわないように、知見を「総合化する」( Synthesize)ための方法論的な枠組みぐらいは作っといたほうがいいのかもしれない。アデリーランドで得られた知見を安易に南極全域に当て嵌めてしまわないような、“自分の分析能力に限定をかけるための包括的な枠組み”をね。めんどくさいからシンセサイザーのアナロジーで書くけど、個々の方法論をプラグインとしてアプリ化するためのDAWみたいな枠組みのことである。まあ、それが構造構成主義なんでしょ? といえば、まあ、そうなんだけど、ハードシンセ(=記号論)や生楽器(=素朴実在論)のユーザーの両方から顰蹙を買いそうですよね、わかります。



ありゃ、最初のほうと最後のほうでぜんぜん話題がズレたぞ。まあいいや、研究目的再設定法(※註)に基づいて、この日記の関心は「学術的データの有効性と限界を明示化すること」だった、ということにしてしまおう。強引に地球温暖化に関連づけてしまうよりは、よっぽど誠実だろう。そもそも「地球が温暖化するのか、寒冷化するのか」なんて、神ならぬ人間にはぜったいに分からないことなのだから。





※註:研究目的再設定法については、以下を参照。

研究以前のモンダイ〔 その(16) 〕事例研究をまとめるコツ:関心相関的論文構成法 西條剛央
http://www.igaku-shoin.co.jp:80/paperDetail.do?id=PA02790_06

>仮説生成型の研究で顕著ですが,あらかじめ知見(構造)がどのようなものになるか予測できない部分もあるため,最初の研究関心と得られた構造が微妙にずれてくることは珍しくありません。(中略)ところが,ここで研究目的のほうを変えれば,そこで得られた知見には十分な意味を見出すことができる,という場合が往々にしてあります。/こうした場合は,研究で得られた知見から逆算的に目的を再設定すればよいのです。