倉井の策略!?

なんか ちょっと おもいついたことなどを かくのです。

和辻哲郎著『日本精神史研究』

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日本における種々の時代の文化を理解することを目指した良著。
芸術、思想、宗教、政治といった、多角的な視点から論じられており、
飛鳥奈良時代鎌倉時代における仏教思想を主軸としながら、
日本人の精神の来歴を検証しています。

和辻の主張に依れば、「まつりごと(政事)」は古来、
「まつりごと(祭事)」と同一であって、
日本における政治は権力者による「支配」ではなく、
民衆の内的欲求に起因する「統率」に他ならなかったとされています。

また、推古時代の仏教受容を「外来文化の輸入」とする
津田左右吉を批判しつつ、
日本人の仏教理解は永遠の哲理には程遠いながらも、
日本人自身の自然な憧憬と結びついて理解されたのであると、
和辻は説明しています。

その他にも、『万葉集』と『古今集』の比較や
(『古今集』は、用語法の複雑化と、後世文芸の先駆けとしてのみ評価)、
竹取物語』における「世態風俗」描写の萌芽、
枕草子』の本文批判についてと、当時の唯美主義の問題、
源氏物語』の成立事情について(紫式部一人の作かどうか)、
などの個別的な論考が並び、

つづいて、本居宣長のいう、
もののあわれ」についての考察がなされています。
宣長は文芸を、「哲理、道徳、感情」の三幅対で捉えたとし、
もののあわれ」とは永遠への思慕であり、
恋する者が恋人に魂の故郷を求めるように、
現実の人、事象を通じて永遠のイデアを恋することこそ、
もののあわれ」だとしています。

すなわち、和辻は宣長の思想を、
1930年代の日本に勃興したロマン主義的な系譜において
理解しようとしていたことがわかります。

つづいての「沙門道元」すなわち禅宗に関する考察が、
本書の思想的中心となるはずなのですが、
いまの僕には、充分に読みこなせませんでした。。。

この本に納められている論考の成立は、
ほとんどが1920年代前半。大正デモクラシーの時代です。
しかしながら、1940年になって、いくらかの改訂がなされています。
……おそらく、大化改新をして
古代における国家社会主義の確立、と評価しているのは
1940年の和辻の主張でしょう。
日本が超国家主義的な展開を見せつつあった時代の言説について、
批判的に吟味することが必要なのは、おそらく間違いないと思います。
(あたかも和辻自身が『枕草子』や『源氏物語』の本文成立の問題を扱ったように、
この本自体の成立事情を見直す必要があるということ)。

しかしながら、それを差し引いてもなお、
この本が日本人を知り、日本の歴史を知る上で、
大きな手がかりとなることは間違いありません。